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  3. オトギデザインズ/森岡聡介

想いはカタチに。

蔵前に事務所兼店舗を構える「オトギデザインズ」。
いろばきや活版印刷を使用したプロダクトで話題になっているオトギデザインズを主宰するのは、森岡聡介さんだ。

かつてより音楽家を志し、デザイン・音楽などジャンルの枠に囚われない活動を目指す森岡さんがうみだす「心に沁みるプロダクト」とはーーー?

心に沁みるプロダクト。

 ここに一つのシューズがある。このシューズの名前は「いろばき」。


なんてことはない、色のついたうわばきに見えるかもしれない。
だけどこれは、ある人の想いとこだわりが詰め込まれた、特別なシューズ。

 

 この「いろばき」を生み出したのは、「オトギデザインズ」の森岡聡介さん。音楽家になりたいと幼い頃から思い続けていた彼が、いろばきを生み出した。

 「オトギデザインズ」は森岡さんの「心に沁みるプロダクト」をつくりたいという想いから生まれたデザインレーベルだ。
 もともと音楽家を志していたけれど、舞台美術やCDジャケットなど音楽にまつわる様々なデザイン
も学んでおきたいと思い、高校の頃から美術の世界にも進んでいった。美術の世界に入ってみると、彼が今まで培って来た音楽の感覚や常識とは違うということを強く感じた。



 

 森岡さんからしてみると、音楽はとても身近に感じられるもので、自然とひとの日常に折り込まれ、そのひとの人生の一部になっていくものなのだ。 一方美術というものは、ギャラリーに鎮座するような距離が遠くかしこまった存在に感じてしまうものだったのだ。

 そこで森岡さんが目指したのは、音楽の常識と同じ目線にたったものづくり。
 しかし、森岡さんが人の日常に近いプロダクトをつくろうと思ったとき、人々の雑貨の見る目は、かわいさ、便利さに向いており、それくらいの価値でしか雑貨を見ていないという現実があることを実感した。
 そういった便利さや可愛さで完結するものではなく、持って帰って自分の心の肥料になるようなプロダクト。それによって別の作用を心に与えたい。音楽がそうであるように。

 


 それが彼の考える「心に沁みるプロダクト」だった。

 

キーは、日本のものづくり。

 世の中には新しいけど懐かしいような感覚がするもの、ビンテージだけれど新鮮に感じられるものがたくさんある。森岡さんにとってはそのバランスが重要で、自身がそのバランスがいいな、と思うものを提供したいという想いから、NEWOLD STOCKというお店が生まれた。

 このお店があるのは、浅草の蔵前という場所。昔ながらの東京と新しい文化がミックスしだしている、今注目のスポットだ。

 もともと台東区や墨田区は都内でも有数の町工場や職人さんが残る町。おもちゃの倉庫をリノベーションしたゲストハウスや、古民家を改装した店舗など、昔ながらの文化を大事にした、温かみのあるものづくりや考えが街全体に広がっている。

 そんな場所に構えるNEWOLD STOCKのコンセプトの一つとして存在するのは、「モノの背景も伝える」ということ。

 音楽であれば歌詞を読むときにアーティストの思いを想像したり、知りたいという欲求が生まれる。だがそれを雑貨に置き換えてみると、そうはならない事が大半だろう。だからこそ、自分たちがこういう思いで作っているという思いを伝えることで、さらに雑貨に興味を持ってもらうことができると森岡さんは言う。

 そして森岡さんにとって、「モノの背景も伝える」にあたって欠かせないキーワードがある。それは「日本のものづくり」だ。
いま日本の工場は、職人さんの高齢化が進み、後継がいないという現状に立たされている。もしこのまま進んでいってしまったら、日本という国は何もものがつくれない国になってしまう…。
 そうならないためには、ちゃんと日本のものづくりの良さを感じてもらえる人に届けなくてはならない。それによって、森岡さんの目指す「心に沁みるプロダクト」、そして日本の工場がつくるべきもの、目指していくものと合致していくのではないだろうか。

 つくっているひとの思いを伝えていくことで、いろんな価値の見出し方が生まれ、違ったものの選び方になっていく。それが「モノの背景も伝える」ことの大切さなのだ。

 

 


懐かしさと活版印刷。

 2014年秋、私たちMUSIC for LIFEは、学校と懐かしさをコンセプトとしたイベント「MUSIC for LIFE SCHOOL」というイベントを企画した。
 誰もが通ってきた学校という存在。しかし大人になってしまうと、行く機会もなく、懐かしさに浸れる場も無い。そんな大人たちにも、学生時代にトリップして、心から楽しんでもらいたい。そんなコンセプトから生まれたイベントだった。
 その際に誰もが懐かしさを感じるグッズがあったら…と想い、出会ったのがオトギデザインズだった。
 早速話を持ち込むと、親身に相談にのってくれた森岡さん。深いこだわりをもってものづくりをしている森岡さんとしては、学校とひとくくりにされてしまうことは、正直なところ抵抗があった。
 それでも話をする中で、ただ単なる懐かしさや学校というコンセプトだけではなく、オトギデザインズという素敵なレーベルを紹介したいという気持ちが伝わり、ビンテージの便箋セットをイベント会場で販売することになった。

 



 とある浅草の文房具メーカーから声をかけられたのがきっかけで販売を始めたというビンテージの便箋は、80年代につくられたデッドストックとして倉庫に眠っていたもの。細かいところに気が配られているのに加え、懐かしいのに新しいような面白さもある商品なので、ぜひお客さんに届けたいと思い、お店での販売がスタートしたのだそうだ。

 MUSIC for LIFE SCHOOLでの販売の際は、アーティストが色の組み合わせを選び、サインも入れてもらったことも相まって、お客さんも心から喜んでくれていた。もちろん、便箋セットは完売。


 そして販売をした際に一番反響があったのは、便箋セットの中に付属していた、オトギデザインズの活版組札だった。

 

 活版印刷を使用した組札は、何枚か集めて組み立てて飾っておけるという代物。パッと見では何か分からないけれど、それこそが狙いの一つでもあり、これは一体なんだろう?と疑問を持ってくれる事が大事なのだ。なぜなら質問に答えていくなかで、ものづくりの背景や想いを伝えていくきっかけになるからだ。


 そもそも活版印刷とは何だろう、と思う人もいるだろう。
活版印刷は、いわゆる印刷の元祖といわれるもの。印刷の技術がない時代は、言葉を技術を口頭でしか伝える術がなかった。森岡さんは、その時代の人が、より多くのひとや後世に自分の想いを伝えたい!という強い想いが生み出した技術なのではないかと思っているそうだ。のどがからからになってしまいそうなほどの欲求によってうまれたものだと考えると、活版というものは素晴らしい文化だ。
 そして活版のよさは、そういったマインドだけではなく、一枚一枚印刷をすることで、へこみやかすれが発生したり、微妙に表情が違ってくるという味わいがあるということ。それが温かみであったり、風合いや懐かしさに繋がるのだ。

 オトギデザインズの組札は、自分たちで1枚1枚を丁寧に刷っている。森岡さんも昔のひとと同様に、想いを伝えていっているのだ。

渾身のプロダクト「いろばき 」

 そしてこの4色にいろどられたうわばき、その名も「いろばき」。


  森岡さんが「心に沁みるプロダクト」を考えたときに、懐かしさを具現化するようなものとして思いついた、「大人でもはけるうわばき」だった。
 いまやオトギデザインズを代表する商品として様々な媒体で紹介をされている。

 しかし、つくるのはそう簡単なことではなかった。

 

 

 

 

 

 

そもそも、うわばき自体がどこでどうやってつくられているのかわからなかった。浅草近辺は靴の職人さんが今もたくさんいらっしゃるので、地元でつくれるんじゃないかと思い、近隣の工場を何件かあたってみたところ、「ゴム靴はつくれない。」と一刀両断されてしまった。それからひたすら探し続けてみると、日本国内でつくれるのは数社しかないことがわかった。

 どうしていいかわからないまま、国内屈指のうわばきシェアであるアキレス社に想いの丈を伝えると、まずはプレゼンをさせてもらえることになった。
 当時、廃校を利用した台東デザイナーズビレッジにアトリエを構えていたので学校机と椅子を並べ、アキレス社に想いと熱意を伝えると、どうにか企画をスタートすることができた。

 しかし、ほとんどが自社で開発した製品を製造するアキレス社は、外部からの持ち込み企画を専門に扱う部署もなかった。
 森岡さん自身も途中で何度も躓いた。これでうまくいかなかったら何千万の借金になる…。そんな状況下にあったが、つくりたいという想いだけでひたすら突っ走った。
 その結果、アキレス社の全面協力もあり、製造の常識や慣例を壊し続け、足掛け1年、ついに完成したのが、この「いろばき」だ。
 
 もともと小学生が安全に過ごせるように、という想いで生み出されたうわばきには、歴史が培ってきたものもつまっている。そこに森岡さんのこだわりがのり、さらに特別なシューズが完成したのだ。

 

人生の物語の一部に。

 想いを大切にものづくりをしている森岡さんの周りには、作家さんやデザイナー、ショップのオーナー等、感性の近い人が様々に集まってくる。
 そんな人たちを紹介していく場を増やしていきたいと想い、森岡さんはイベントの開催なども手掛けている。
 「蔵前二丁目物語」と名付けられた森岡さん主宰のイベントには、様々な作家さんの商品や、おいしいフードが並んだ。実はタイトルには「ものとの出会いや、ものづくり家の想いを込めたものたちが、手に取ったお客さんの人生の物語の一部に折り込まれていってほしい」という想いも込められているのだそうだ。  そこに並ぶものには、ものづくり家の想いや背景があるからこそ、商品を叩き売る事を必要とする雑貨店に並んでいるものとは違うと感じることができるだろう。ものから語りかけてくるような素敵な作品をつくっている人たちは沢山いるし、ものづくり家自身も紹介していきたい、と森岡さんは言う。

 そして蔵前では、月イチの恒例イベント「月イチ蔵前」というイベントも開催されている。
 蔵前のお店やものづくり家が、それぞれのキャパシティの中で、ゆるく開催をしているイベントだ。ワークショップや、その日だけのイベントや商品の販売などを開催しているので、ぜひ一度は行ってみてほしい。下町の雰囲気を感じながら、素敵なお店を巡ることもできるし、飲食店などもあるので、休みながら楽しむことができる。

 蔵前というスポットが今後さらにどのようになっていくのか、とても楽しみだ。